東京地方裁判所 平成5年(ワ)8871号 判決 1994年2月28日
原告 トウェンティース・センチュリーフォックス・ライセンシング・アンドマーチャンダイジング・コーポレーション
右代表者社長 アルバート・オヴァディア
右訴訟代理人弁護士 西尾孝幸
同 金崎淳
右訴訟復代理人弁護士 赤羽富士男
被告 ウェストポートトレーディング株式会社
右代表者代表取締役 江島一秀
右訴訟代理人弁護士 松村幸生
同 中田明
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
一 原告は、「被告は原告に対し、金七四六万二二〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三日から支払済みまで年一割八分の割合による金員を支払え。」との判決を求め、請求の原因として別紙のとおり述べた。
二 被告は、本案前の答弁として本訴却下の判決を求め、本案前の主張として、原告と被告は、本件契約締結の際、本件契約に関する訴訟につき合衆国カリフォルニア州の裁判所を専属的裁判管轄と定める旨の合意をしたのであるから、東京地方裁判所は本件訴訟の管轄権を有せず、したがって、本訴は訴訟要件を欠く不適法なものであると述べた。
また、被告は、本案の答弁として、請求棄却の判決を求めた。
三 そこで、本案前の主張について判断する。
1 原告と被告は、本件契約締結の際、本件契約とその有効性、解釈、効果についてはカリフォルニア州法に準拠し、また解釈されること、本件契約から発生し、又は関連するいかなる訴訟、訴訟行為、手続、法的処置も合衆国地方裁判所カリフォルニア中央区又はロサンジェルスにある司法権を有する然るべきカリフォルニア州の裁判所で起こされ、当事者はいかなる訴訟、訴訟行為、又は手続において前記の裁判所の管轄に従い、管轄に対するあらゆる異議申立権を放棄する旨の合意(以下「本件管轄約款」という。)をしたことは、当事者間に争いがない。
2 右の合意の文言から見て、本件管轄約款が、本件契約に関する訴訟事件につき、我が国の裁判権を排除し、合衆国カリフォルニア州の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意であることは明らかである。
なお、甲第三号証中には本件管轄約款は付加的国際裁判管轄であると原告が考えていた旨の部分があるが、本件管轄約款の文言及び反対趣旨の乙第一号証に照らしたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 もっとも、原告は、本件管轄約款は付加的国際裁判管轄であると主張し、その理由として、国際的専属的裁判管轄の合意の結果が当事者に重大な利害を及ぼす可能性があり、それが著しく不合理な程度に達するときは、その合意の効力を否定すべきであるところ、本件契約の本旨が日本法人である被告が原告の許諾を得て日本国内でキャラクター商品を販売することに関するものであることからすると、本件管轄約款は専属的国際裁判管轄と解釈するのは不合理であり、「原告は被告の法廷に従う」との普遍的な原理に管轄を付加するべくなされた付加的国際裁判管轄と解釈するのが妥当であることを挙げる。
たしかに、本件管轄約款は原則的に有効であるとはいえ、右の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合には無効となると解すべきである。しかし、本件管轄約款は、原告の指摘する点を考慮に入れても、公序法に違反する無効なものであるということはできない。
4 次に、原告は、仮に、本件管轄約款が専属的国際裁判管轄であるとしても、被告が右合意を援用することは、被告にとって何ら正当な利益をもたらさず、被告がこれを援用して日本での応訴を拒否するのは単に訴訟遅延を目的とするものであるから、権利濫用であると主張する。
しかしながら、原告の指摘する点を考慮しても、被告が本件管轄約款を援用することが権利濫用であるということはできない。
四 以上のとおり、当裁判所は本件訴訟の管轄権を有しないのであるから、本件訴えは不適法であり、これを却下することとする。
(裁判官 畠山稔)
別紙 請求の原因
一 原告は、アメリカ合衆国カリフォルニア州に本店を有する法人であり、被告はスポーツ用品の製造販売を業とする株式会社であるが、平成二年一一月六日、原告を許諾者、被告を被許諾者として次の約定による商品化権許諾契約を締結した。(以下「本件契約」という。)
1 キャラクター アメリカ合衆国におけるテレビ連続番組「ザ・シンプソンズ」に登場する、「ザ・シンプソンズ」で知られるアニメキャラクターの家族に関するアートワーク及びタイトルロゴ
2 ライセンス品目 スケートボード・人形・ヨーヨー他五品目
3 契約期間 平成二年一二月一日から同四年一二月三一日まで
4 ロイヤリティ 小売総売上代金の四パーセント
5 右支払方法 契約日に三四四万九八〇〇円を前払いし、以後四半期より一五日目限り四半期分を支払う。
6 最低額保証 被許諾者は契約期間中支払われるべきロイヤリティについては、一〇九一万二〇〇〇円を下回らないことに同意し、この額を契約終了の九〇日前までに支払うものとする(但し、前項の前払金がこの一部として充当される)。
7 遅延損害金 年一八パーセント
二 被告は、平成四年一〇月二日までに、原告に支払うべき最低保証額と前払金との差額である七四六万二二〇〇円の支払をしない。
三 よって原告は、被告に対し、商品化権許諾契約に基づくロイヤリティとして金七四六万二二〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三日から支払済みまで年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。